超解釈テニスの王子様  人生哲学としてのテニプリ(namimashimashiのブログ)

人生への圧倒的肯定を描き出す『テニスの王子様』と、その続編『新テニスの王子様』についての個人的な考察を綴ります。 出版社および原作者など全ての公式とは一切の関係はありません。全ては一読者の勝手で個人的な趣味嗜好です。 Twitterアカウント:@namimashimashi

原作漫画を読み解く_青春学園考察

テニスの王子様』は越前リョーマから始まる青春学園中等部男子テニス部(青学)の物語だ。

 

連載初期の『テニスの王子様』公式ファンブック達に掲載されている原作者の許斐剛先生のインタビューから引用したい。

 

テニスの王子様 公式ファンブック10.5巻

許斐剛先生 Inside Out Report !!

許斐先生に聞く‼︎『テニスの王子様』誕生のウラ

越前リョーマを主人公に持って行くと作品全体が暗くなる不安を解消させた方法についての問答の流れで)

リョーマの周りにすごく強い青学レギュラーたちを持ってきて、その誰もがリョーマの個性に負けていないという。」

 

テニスの王子様 公式ファンブック20.5巻

許斐剛INTERVIEW OF ALL CHARACTERS

(青学のライバル校のキャラ達を中心にした話は描く予定があるのかどうかという質問に対して)

「やっぱり青学が中心になるでしょう 。ライバル校は、次の試合で青学と対戦する前に強さを見せるなど、ひとつのステップとしては出すかもしれません。基本的には青学絡みで行こうと思っています」

 

魅力的なキャラクターはたくさん居れど、『テニスの王子様』は青学を主人公校として中心に置き焦点を当てて描かれた物語なのである。

 

青学レギュラーは描かれ方が詳細だ。

 

青学内でのランキング戦、部内練習は、青学レギュラーの自己紹介として機能する。

対 主人公の越前リョーマとすることで、各青学レギュラーキャラクター個人の弱みと強みが浮かび上がる。 

これが大会になり、学校対学校の試合になった時に、青春学園が主人公としての役割を発揮することになる。部内描写が学校単位での主人公になった物語において、違和感なくその主人公校の役割を果たさせている。

 

青学はレギュラーが9人(都大会までは8人)いる都合上、大会では2人ずつ試合には出場しない補欠となる。

各試合の試合毎にどの7人が選ばれているのかが漫画を読む上で重要になってくるのだが、それは、各対戦校が連れてくる人生のテーマとの相性の良いメンバーが選ばれていると読むことができるであろう。

例えば、全国大会の対氷帝学園における人生の課題は"情熱"であると考察でき、人間自らのうちに宿る情熱をぶつからせる試合である。

この試合での青学の試合メンバーは

S1:越前リョーマ

S2:手塚国光

S3:桃城武

D1:大石秀一郎菊丸英二

D2:乾貞治海堂薫

補欠:不二周助河村隆

となっており、この全国氷帝戦の時点において、青学メンバーの中でも不二周助河村隆の両名はとりわけ試合へのモチベーションや情熱の掛け方において利他志向が大きく、自らの内部に宿る情熱の量としては青学レギュラー9人の中では弱い方であろう。

 

また、同じ対氷帝学園戦でも関東大会については、向き合う人生の課題が"チーム・仲間"であると考えられるため、D2で3人でダブルスとなったことを鑑み、青学9人全員で挑んだ試合であったことも納得できるだろう。

 

各ライバル校が青学との対戦にあたって、どのような人生のテーマ・課題を提示しているのか、という考察については、2018年4月12日に掲載した記事を参考にされたい:

https://namimashimashi-tpot-373.hatenablog.jp/?page=1523705120

 

なお、『テニスの王子様』を読み解くにあたり、青学の団体戦における各試合毎のメンバーは考慮されても、勝敗については勝ち負けどちらであっても人生の課題に対する向き合い方には影響しないと考えても良いだろう。

それは、『テニスの王子様』の最終巻にほど近い頃に出版された公式ファンブック40.5巻において、原作者許斐剛先生が以下のように語られていることによる。

「無残にやられる中で、どう青学のキャラクター達のよさとか進化を描こうかと考えていました。海堂に関しては、まわりの皆が強くなるレベルに合わせる様に、進化を果たさせたかったんです。」

 

青春学園中等部男子テニス部レギュラーメンバーは、試合をすることでその対戦校が提示する課題と戦い、乗り越えていく存在だ。 各対戦校が連れてくる課題に向き合える青学レギュラーのみが、その時その時で戦うに相応しい存在であったように描かれている。

だからこそ、『テニスの王子様』の主人公越前リョーマは青学に入学しなければならなかったし、青学がそれぞれの瞬間であの状態であったからこそ全国優勝を成し遂げることができた。

そんな唯一無二の奇跡を起こせるよう、青学をしっかりと主人公校に仕立て上げることで、描いてみせている。

 

以下、余談だが、

テニスの王子様』の続編『新テニスの王子様』はライバル校キャラクターの救いの物語と読むことができるのではないだろうか。

テニスの王子様』では救われなかった、課題に直面するだけで終始したキャラクター達が成長する、個人的な人生の課題と向き合って克服するストーリーである。

テニスの王子様パーフェクトファンブック23.5巻のインタビューにおいて許斐剛は、無印『テニスの王子様』は漫画のコンセプトとしてプロセスを描かないことにしていた、と明かしている。

そのことが『テニスの王子様』での、より一層青学のみにフォーカスが正しくあたる、主人公校として機能するように働いていた。

裏を返せば、ライバル校のキャラクターは青学レギュラーキャラクターに比べて圧倒的に描写が少ない。すなわち、青学と対戦したその後の成長や心境の変化が描かれるのは非常に稀なケースである。

なお、その限りではないライバル校キャラクターとして跡部景吾が挙げられるが、跡部景吾はパーソナリティと生い立ちの特性において課題克服までの期間が圧倒的短期間のため、進化や成長が垣間見えたに過ぎない。

『新テニスの王子様』では時間をかけて一人一人の王子様を描くからこそ、無印では課題が課題のままになっている王子様達が、青学にフォーカスが当たった世界では焦点が結ばれなかった王子様達が、特に、その救いを描いてもらっているように読むことができると捉えている。